被災地の石巻市・雄勝町で観光トレラン

震災からの復興ではなく、新たな日常の創出に

 東日本大震災で被災した宮城県石巻市で今年6月30日と10月27日、「三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング」が開催される。これは石巻市の北部沿岸に位置する漁村の雄勝町を舞台に開催されるトレイルランニングレースだが、同時に地元で獲れる旬の海産物を食べ尽くしてもらうというのも開催目的のひとつ。スポーツと観光をうまくミックスさせたファンランイベントであり、スポーツツーリズムとして注目されるイベントとなりそうだ。
 三陸・雄勝 海の幸トレイルランニングが開催される宮城県・雄勝町は太平洋に面する町。しかし、町の面積の80%以上を山林が占め、雄勝半島は南三陸金華山国定公園に指定されている。
 運営母体は「海の幸トレイルランニング実行委員会」で、石巻市役所雄勝総合支所、地元の商工会議所や飲食店、漁師といった有志、そして復興サポーターとして東日本大震災後にこの地域に移り住んだ山本圭一さんらで構成されている。山本さんはこれまでフィットネスクラブの運営コンサルティングを仕事にしていたが、雄勝町を好きになり、震災後に移住。夜中は漁師の手伝いとして海に出て、昼はイベントの事務局や企画運営をしている。決してフィットネス&スポーツの専門家として移住したわけではない。しかし、雄勝町に移住して2年が過ぎ、「この町は新たな日常を創る時期に来ている」と実感。スキルのあるスポーツを通じて観光や町そのものを活性化させることを思いついた。コースプロデュースのアドバイザーに石川弘樹氏を招く一方、トレイルランニングを通じて地域の活性化をいかに図るかに腐心し、ファンランイベントと前夜祭での海の幸の食べ放題に至った。
 もともと雄勝町は人口約4,300人の過疎の町。交流人口の拡大による地域活性化が命題で、今回も「三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング」を通じて海産物や名産の硯をPRすることを目的に開催する。トレイルランニングを通じて一度雄勝町に来てもらい、物産を消費してもらうと同時に、気に入ってもらえればその後何度も雄勝町を訪れてもらうことで飲食店や宿泊施設が潤うことを願っている。大会はそのきっかけづくりに行う。
 同大会は開催地が東日本大震災の被災地であるにもかかわず、ネーミングや趣旨に一切「復興」という言葉を使っていない。「復興と言っても人によってさまざまな意味があるため、あえて省いた」と山本さん。あえて言うなら、震災からの復興ではなく、過疎で悩む地域の復興を願っての開催だ。
 大会の参加定員は100人。家族も含め、150人程度の参加を見込んでいる。この種の大会としては小規模だが、受け入れのキャパシティを考えての設定であり、何よりも「参加者同士、参加者と運営スタッフ同士、一人ひとりが知り合いになれる規模を目指した」と山本さん。海とトレイルの緑が調和した、ほのぼのとした大会が予想される。

随所にスポーツツーリズムの理想像

 コースは雄勝町の中心部から、南三陸国定公園の硯上山、水沼山、上品山へと続くトレイルで、距離は16㎞、25km、35㎞から選べる。
 参加費は、「ラン&海の幸食べつくし」(100人程度)が10,000円(税込)、「海の幸食べつくしのみ」(小学生無料)が3,500円(税込)で、制限時間は7時間30分。一応はレースであるため、全行程を完走した選手のゴール到着順1位~5位を表彰する。6月の「銀鮭ランニング」では副賞として銀鮭1本まるごとをプレゼントするほか、参加者全員に硯の元となる雄勝石を使った盾をプレゼント。地域の物産を副賞や参加賞にした演出が心憎い。
 この大会のユニークなところは、レースであってレースではないような、緩やかなルールで行われる点だ。各コースの順位は決めるものの、ICチップなどによる計測は行わず、ストップウォッチで対応。募集要項でも、「海の幸トレランは、タイムを競う競技・レースではございませんので、ICチップなどを使った時間計測はいたしません。ただし、ストップウォッチを使って簡易計測しておりますので、ゴール後に計測スタッフまで、ご確認頂ければと思います」とうたっている。
 さらに、すべてのコースに折り返し地点があるが、あくまでもタイムや順位を競うものではないとして、35kmの部に参加する選手でも最終折り返し地点の上品山エイドステーションまで行かずに、途中の水沼山か硯上山のエイドステーションで折り返しても失格にはならないとしている。とかくタイムや順位や距離を競うシリアスなトレイルランニングレースが多い中、町や大会の雰囲気を楽しんでほしいと願う理想的なスポーツツーリズムと言えるだろう。
 コースプロデュースのアドバイザーはプロ・トレイルランナーの石川弘樹さんが務めているが、実行委員には漁師や調理スタッフが名を連ね、まさにスポーツと観光をコンテンツに地域の復興を行おうとしている。
 参加する側には被災地を走ってもよいのかという疑念が湧くが、大会の公式ホームページには下記のような心のこもったメッセージが書かれている。
 「被災地でも気にせずお越し下さい!本イベントに関わる住人は、ランナーの方々に、ぜひ雄勝町にお越し頂き、地元の自然や海産物を、気ままに楽しんで頂きたいと思っております。 ただ、被災地ゆえにスタッフの確保が難しく、大会の規模は小さくならざるを得ないのも事実。ですがその分、参加者お一人お一人にご満足いただけるよう、住人一同、友達を迎え入れるような気持ちで、皆様のお越しをお待ちしております!
 どうか気にせずお越しくださいね!試走も大歓迎です!」
 山と道さえあれば実現できるトレイルランニングが被災地、そして過疎で悩む町の観光振興にどのように役立つのか。先例のイベントして大いに期待したい。