TOGA天空トレイルラン(富山県利賀村)

標高1,000mの山々に囲まれる利賀村
標高1,000mの山々に囲まれる利賀村

 富山県南西部に位置する南砺市。その最南端にあり、岐阜県白川村や飛騨市に接する利賀村(とがむら)は、渓谷に点在する集落の平均標高が500~700m。山深さと雪深さから、冬ともなると富山県でも有数のアクセスが困難な場所として知られている。2013年8月末現在の人口は約650人。65歳以上の高齢者率が4割を超える。
 その利賀村で2014年6月、地元の住民が主体となって運営するトレイルランニング大会が開催される。過疎と高齢化が急速に進む利賀村がなぜ、自前でトレイルランニング大会を開催するのか。そこには、スポーツツーリズムを手段とした交流人口の拡大と、ランニングの特性を生かした地域の活性化への期待が見え隠れする。

公式パンフレットはこちらです。
TOGA天空トレイルラン.pdf
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四方を山に囲まれた天空の地

前金剛山頂。1637.9m
前金剛。1637.9m

 二百名山の金剛堂山(前金剛=1637.9m)をはじめ、水無山(1505m)や三ヶ辻山(1,764m)など標高1,000mを越える山々に囲まれた利賀村は南北に細長く、庄川の支流である利賀川と、神通川の支流である百瀬川が地域を縦断する。いかにこの地区が山深い地域であるかはgoogle map地形図で利賀村を見るとわかるが、緑色の山塊の谷に2本の川が流れ、その川に沿って「天竺温泉の郷」や「利賀瞑想の郷」などこの地区のランドマークが点在する。地形図では名もない山頂がいたるところにあり、ほとんど平地がないことがわかる。
 利賀村を構成する22の集落は、主にこの2本の川沿いと国道471号線沿いにある。村と名乗ってはいるが、2004年11月1日に周辺の福野町、城端町、平村、上平村、井波町、井口村、福光町と合併し、南砺市となった。平成の大合併の後、市の一部となったにもかかわらず「村」の呼称を地域の名として残したのは、この地区が持つ連帯感や誇りの表れだろう。
 急峻な峡谷地形であり、2本の河川の間さえ険しい山塊に遮られたこの地区は長い間、峡谷を抜けるため村外へのアクセスはもとより、村内でも行き来が困難な交通の難所だった。かつては県内でも有数のアクセスが困難な自治体として有名だったが、今では国道471号線が富山市や砺波市と利賀村を結ぶ。
富山空港までは車で1時間程度だが、そこには高岡・氷見や立山黒部アルペンルートなど富山を代表する華やかな観光地とは異なる、昔ながらの集落が天空の地のように存在する。

「村」の呼称に伝統の気骨残す

交流人口の拡大で地域活性化を図る利賀村
交流人口の拡大で地域活性化を図る利賀村

 利賀村には今でもスーパーやコンビニ、ホテルはなく、民家のないところには十分な街灯もない。それでもそこで生活する人々に笑いは絶えず、日常生活の不便さを声高々に嘆く姿も見られない。そこには時間に逆らわずに生活を営む人間らしい空間があり、それが都会からやって来る人々に潤いを与え、良い交流文化を育んでいる。交流の範囲は姉妹都市で結ばれる東京武蔵野市の小学生や短大生の移動授業、大学のゼミ活動の場、その他ここで開催される多くの祭りの参加者にまで及び、途切れることなく回を重ねている。
 市の一部となってからも「村」の呼称を地名に残した利賀村には、そこに住む人々の人柄、もてなしの文化、自慢、誇り、伝統といったさまざまな気骨が込められているのかもしれない。
 1960年には3,000人を超えていた人口は地域の不便さなどから人口の流出が止まらず、2004年の合併時には約900人まで減少。2013年9月現在は約650人を数え、減少は今なお止まらない。高校はなく、小中一貫校を卒業すると子供たちは近隣の高校へ行くために地域を出て、親戚の家で暮らしたり、一人暮らしを始める。働く場所が十分にないため故郷へは戻らない。だから人口は減り、高齢者率は上がる一方だ。

北陸新幹線開通前に先手

自慢の利賀のもてなし。民泊もそのひとつ
自慢の利賀のもてなし。民泊もそのひとつ

 その利賀村が2014年6月、「TOGA天空トレイルラン」を開催する。いわゆる限界集落で行われるトレイルランニングは、群馬県神流町で毎年11月に開催される「神流マウンテンラン&ウォーク」が有名だが、神流町は首都圏に近く、人口は2,000人を超える。高齢者率は5割を超えているものの、15~64歳が1,000人近くおり、同地と比べると利賀村は勢力、ロケーションともにハンディを背負う。2015年春には北陸新幹線が開通し、富山と東京の交通網は利便性を増すが、八尾町と結ばれる1日2本の市営バスしか二次交通がない利賀村にどれだけ影響があるかは未知数だ。
 しかし、便数が少なく運賃が高い航空機、移動に一晩を要する夜行バス、越後湯沢を経由する新幹線を使わなくても富山までは容易に行けるようになることから、新幹線が開通する前に先手を打つ。第一の目的は、トレイルランニングを集客ツールにした観光政策と、それによる地域の活性化だ。
 もともと利賀村では、雪像と利賀特産の手打ちそばで来客をもてなす「南砺利賀そば祭り」(2月)、利賀村内の各地区で行われる獅子舞の「春祭り」(5月)、「利賀とがめん麺祭り」(8月)、「上畠アート」(同)、世界演劇祭「利賀フェスティバル」(同)、「どーんと利賀の山祭り」(10月)が毎年の定例行事として行われており、外客へのもてなしは「真心のもてなし」「利賀のもてなし」などと呼ばれ、地域の誇りとなっている。TOGA天空トレイルランでも、エイドステーションに手打ちそばや清流そうめん、五箇山豆腐、山菜料理など一風変わった補給食を並べ、多くの住民がランナーを歓待する予定だ。

トレイルランニングが分散集落を結ぶ

2013年10月19日に住民も参加しての試走会を開催
2013年10月19日に住民も参加しての試走会を開催

 これまで行われてきた数々の祭りは地区ごとで開催されていたり、その場所へ行かなければ見られないものばかりで、小さな利賀村でさえ集落間につながりが乏しかった。しかし、トレイルランニングは選手が自分たちの住む集落にやって来て、地域間を結んでくれる。住民は家からわずかに屋外に出るだけで応援ができ、走っている選手を応援することで参加気分を味わえる。
 この特性を生かし、第1回目の開催は金剛堂山など人が住んでいない高い山をあえて避け、できるだけ多くの集落を巡るコースを設定。住民が総出で選手を応援できるコースづくりを心がけた。 31kmのコースのトレイル率はおよそ7割。残る3割を舗装路が占めるが、その舗装路に、住民の笑顔やもてなしがちりばめられる予定だ。

埋もれた資源の再利用

スキー場の刈り込みをして試走会開催を開催
スキー場の刈り込みをして試走会開催を開催

 ではなぜ、ロードを走るマラソンではなく、トレイルランニングなのか。それはこの競技がブームだからではない。四方を山に囲まれた利賀村にとって山はあまりにも身近な存在であり、これまで観光資源にはなっていなかった。2000年の富山国体ではスノーバレー利賀スキー場の駐車場から金剛堂山に至るトレイルが、15kgの荷物を背負って走る縦走競技のコースになっていた。しかし、国体開催以降は登山道が廃れ、背丈を上回る笹が生い茂る藪と化していた。

 同じく百瀬川流域と利賀川流域が1988年に開通した新楢尾トンネルによって結ばれると、村としての一体性は保たれ利便性は高まったものの、両川を隔てていた山塊を貫く林道は廃れ、通る者はほとんどいなくなった。最終的には多くの遊歩道や林道が、地図にさえ描かれなくなっていた。
 通る者がいなくなったり、整備に予算がつかなくなると、トレイルは廃れる。2013年6月以降、実行員会や森林組合によってTOGA天空トレイルランの開催に向けてのコースづくりが進められたが、木が生い茂っていたり、草や笹薮が道を覆っていたり、トレイルが崩れて通行できない道が多数見つかり、あらためて整備の必要性を迫られた。
 TOGA天空トレイルランは、長い間埋もれていたトレイルを再び整備し、観光資源や住民の散策路として生かす予定だ。
 2000年の富山国体の縦走競技で利用したコースはこの夏、地元の森林組合によって刈り込みが行われたが、木の根がいたるところから生え、整備に時間と予算がかかることからコースとしての活用は見送られた。しかし、採算が合わずにスノーバレースキー場が閉鎖に追い込まれた今、周辺の山々の再利用は急務であり、トレイルランニングやスノーシューなどを目的としたスポーツツーリズムが今後有力な集客ツールとして注目を集めそうだ。
 スノーバレースキー場の山頂から金剛堂山まで続く稜線を利用した2000年の富山国体の縦走競技では、プロトレイルランナーの鏑木毅さんら群馬県勢が優勝している。

箱モノからの脱却で新市場を創造

トレイルランニング大会の後には利賀村ならではのオプショナルツアーを用意する
トレイルランニング大会の後には利賀村ならではのオプショナルツアーを用意する

 利賀村には瞑想の郷、利賀芸術公園、天竺温泉の郷、そばの郷、利賀国際キャンプ場など、小さな地域にしては箱モノが多く、過去に多額の予算が投入されたことをうかがわせる。しかし、道の資料館である飛翔の郷やスノーバレー利賀スキー場が営業を停止するなど、利用率は振るわない。利賀村で行われるイベントはこうした施設を会場に行われている。
 一方、ほとんど施設を必要としないアウトドアスポーツは維持費がかからず、低予算で実現でき、身近な資源を掘り起こす契機になる。そして、スポーツという新たな市場の掘り起こしにもつながる。
 イベントで観光客をどっと呼ぶのは簡単だが、長続きせず、過疎と高齢化が進む地域では運営も大変だ。何度も来てくれるリピーターを育成し、よかったら移り住んでくれるような利賀村ファンを地道につくっていきたい――。人口の拡大が見込めない利賀村は、交流人口の拡大によって賑わいを取り戻し、地域を活性化させる政策に方向転換。東京など都市部から多くの子どもたちを受け入れ、草刈り、そば刈り、イワナのつかみどりなどの体験学習の場を提供している。
 トレイルランニングの大会も一見すると一過性の新たなイベントの開催にすぎないが、これを契機に新たな市場を開拓し、大会や試走を通じて利賀村を訪れるファンづくりを目指す。スーパーもコンビニも、また十分な量の宿泊施設もないが、整備されたトレイルを武器に誘客し、「また走りに来たよ」と、まるで選手や同伴者が故郷に帰ってきたかのような居心地のよい場を将来的に提供したい考えだ。
 本番は2014年6月14日。レース後には選手や家族が利賀村の住民と触れ合える後夜祭を開催するほか、翌15日には、そば打ち体験、イワナ釣り、ヨガ、山菜採り、金剛堂山へのトレッキングなど、交流をテーマにしたオプショナルツアーを用意する。余興イベントが少なく、すぐに家路についてしまうことが多いランニング大会の常識を打ち破り、土曜日に開催して翌日も利賀村での滞在を楽しんでもらえるオプショナルツアーをセットにしたトレイルランニング大会を目指す。
 真冬は3m以上もの積雪で覆われる利賀村。2014年の雪解けの新緑の季節の到来とともに、天空後に新たなトレイルコースが誕生する。

TOGA天空トレイルランとは――


TOGA天空トレイルラン実行委員会主催。2014年6月14日開催。ロングの部は31km。ショートは8.4km。最大標高1,324m。累積標高2,000m(いずれもロングコース)。開催概要は2013年10月19日の試走会を経て決定。大会の後、住民を交えての交流会があるほか、翌日はそば打ち体験、イワナ釣り、山菜採り、金剛堂山へのトレッキング、ヨガ体験などのオプショナルツアーを用意し、選手だけでなく同伴する家族や友人も楽しめる大会運営を目指す。二次交通がないことから、富山空港、富山駅、越中八尾駅をはじめ、参加人数によっては東京からも利賀村行きの直通バスを運行する計画がある。

TOGA天空トレイルランの開催効果

① トレイルランニングをツールにした観光誘客と北陸新幹線開通との相乗効果の発揮
② 箱モノに頼らない新市場の創造
③ 伝統の利賀のもてなしの披露
④ そば、そうめん、五箇山豆腐、山菜など自慢の味覚のPR
⑤ 身近な森林の観光資源化
⑥ 参加者と住民の交流による地域の活性化
⑦ 失われた古道の再生と有効活用
⑧ ランニングだから実現する集落の連携と一体感の醸成
⑨ 全住民が参加できるイベントの実現
⑩ 旧スキー場など遺産の有効活用

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